Pinchers(ピンチャーズ)Text by Dub Store Sound Inc.
独特なシングジェイスタイルとバッドなイメージで80年代から活躍するアーティスト。鼻にかかった様な特徴的な歌声で多くのファンを魅了し続けている。
Pinchers
本名 |
Delroy Thompson |
出生 |
1965年4月12日 |
出身地 |
ジャマイカ キングストン |
9人兄姉の末っ子としてキングストンに生をうけたピンチャーズ(Pinchers)ことデルロイ・トンプソン(Delroy Thompson)。独特なシングジェイ。スタイルから繰り出される、鼻にかかったような特徴的な甘いヴォイスとそのバッドなイメージで80年代に一世を風靡した。アーティスト名である"ピンチャーズ"は工具のペンチから付けられた物で、デビュー前からの古いニックネームである。父親の仕事の関係もあり、教会関係の学校に通っていた彼は、朝の祈りの聖歌等を通して自然に音楽と触れ合うようになっていく。
レコード・ビジネスへと本格的に乗り出すきっかけとなったのが、プロデューサー、ジョン・ドレッド(John Dread)との出会いであった。イギリス、ジャマイカを行ったり来たりしながら作品をプロデュースしていたジョン・ドレッドと友人の紹介で知り合ったピンチャーズは、彼のプロダクションに'Me Love Me Like Me Enjoyment'をレコーディング。これが記念すべきデビュー作である。ジョン・ドレッド・プロダクション(John Dread Prodctions)はイギリスを拠点にリリースしていたレーベルだった事もあり、ピンチャーズの作品はジャマイカよりも先にイギリスにて発売される事になったのである。
そんな彼の大出世作となったのがエクスターミネーター(Xterminator)の前身、フィリップ'ファティス'バレル(Phillip 'Fatis' Barrell)のヴィーナ(Vena)からの'Lift It Up Again'である。1985年に島中を駆け巡ったこのチューンは、ギリギリまで削ぎ落とされたソリッドなリズム、"Answer"に乗せたダンスホールのアンセムである。この曲以降のピンチャーズの勢いは凄まじく、様々なプロデューサーの元から数多くのヒットを放った。同じくヴィーナからはダディー・フレディ(Daddy Freddie)とのコンビネーションで'Joker Lover'、そして'Grammy'。ジョージ・パン(George Phang)のパワー・ハウス(Power House)からは'Don't Distress'、トミー・コーワン(Tommy Cowan)のシュプリーム(Supreme)からの'Return Of The Don'、サンダー・ボルト(Thunder Bolt)からの'Rough Neck'と怒涛の様にヒットを連発。押しも押されぬトップ・スターへの階段を一気に駆け上がってしまったのである。
そしてピンチャーズの作品を一番多く手掛けたのが、80年代ダンスホールの王者、ジャミーズ(Jammys)である。ジャミーズの青いレーベルに彩られた彼のレコードはことごとくヒットを記録し、島中を熱狂の渦へと巻き込んでいったのである。中でも大きな話題となったのが"Mr. Banderelo Man"という異名にも繋がった'Banderelo'である。メキシカン・スタイルのバッドマンを題材にしたセンスが光るバッドマン・チューンで、スパニッシュを織り交ぜた言葉を巧みに操るコミカルなライミングは高いスキルを感じさせる。その他'Agony'、'Call Upon Mi God'、'Don Is Don'、'Sit Down Pon It'といったレコードによってピンチャーズは大きな成功を手にし、これらのチューンは今尚絶大な人気を誇るダンスホール・クラシックとして君臨し続けている。
90年代に入ってもデジタルB(Digital B)からの'Enemies'や'Send Another One Come'、ペントハウス(Penthouse)からの'She's Coming Back'等のヒットをチャートに送り込み、コンスタントな活躍を見せる。その後リリースも落ち着き、目立ったヒットからは遠ざかっていたピンチャーズであったが、近年は定期的に新作が届けられ完全復活を予感させる。
2007/04/24 掲載 (2013/10/24 更新)