Fred Locks(フレッド・ロックス)Text by Dub Store Sound Inc.
「Black Star Liner」というルーツ・レゲエの金字塔を打ち立てたアーティスト。彼はこの作品によって永遠に歴史に名を刻むこととなった。強烈なリズムに乗せたラスタファリアンが切望するアフリカ回帰やその思想は時代を越えて語り継がれている。
Fred Locks
本名 |
Stafford Elliot |
出生 |
1955年 |
出身地 |
ジャマイカ キングストン ウェスト・インディーズ |
フレッド・ロックス(Fred Locks)ことスタフォード・エリオット(Stafford Elliot)。1955年にキングストンのウェスト・インディーズで生まれた彼は敬虔なラスタファリアンとして知られる。多くの録音機会に恵まれた訳では決してないが、彼が残した一握りの音楽は当時のジャマイカの時代背景やラスタの思想を代弁した歴史的に重要な作品である。
彼がフレッド・ロックスという名を名乗り始めるのは1975年のことで、それ以前はリリックス(Lyrics)のメンバーとしてグループで活動していた。リリックスはコクソン・ドッド(CS Dodd)率いる名門スタジオ・ワン(Studio One)でデビューを飾り、'A Get It'、'Hear What The Old Man Say'、Money Lover'、'Music Like Dirt'といった作品をレーベルに残した。この時代の一流アーティストがそうであるように、彼もまた音楽の学校、スタジオ・ワンの出身という訳である。彼等がスタジオ・ワンに籍を置いていたのは1966年から68年までの2年余りで、その後はヴィンセント・ランディ・チン(Vincent 'Randy' Chin)のランディーズ(Randys)に加わることとなる。ランディーズには'Bridge Over Troubled Water'、'Love That Is Real'、'Give Praises'等の録音を残している。そうしたキャリアを積み上げた1972年、自らが出資したレーベル、リリック(Lyric)より'Sing A Long'をリリース。この曲は彼等の一つの集大成とも言える完成度の高い作品で、グループの最高傑作と呼ぶにふさわしい。
こうした初期の作品は彼のキャリアを辿る上で重要な物であるが、フレッド・ロックスが歴史上稀にみる大きな仕事をやってのけるのは、ラスタ団体、トゥエルヴ・トライブス・オブ・イスラエル(Twelve Tribes Of Israel)が運営するレーベル、ジャーミックミュージック(Jahmikmusik)からソロ・アーティストとしてであった。
ラスタ、あるいはカルチャーをテーマにした曲が主流となった70年代中期おいて、彼の歌う痛烈な、精神的、社会的メッセージは多くのゲットーの若者の共感を呼んだ。彼の重々しく独特な歌唱スタイルは救済を求める人々の叫びや、ラスタへの信仰というテーマを扱う方がよりリアルに民衆の心に響いたと言えるだろう。
75年に発表された「Black Star Liner」は時代を越えたルーツ・レゲエの傑作として多くのリスナーの記憶に残る。"Black Star Liner"とはアフリカ回帰運動の指導者であり、企業家としても知られるマーカス・ガーヴェイ(Marcus Garvey)の貿易会社、ブラック・スター・ライン(Black Star Line)社で所有されていた貿易船を指す。貿易や物流によって利益を生むことが本当の目的であったのか私達には知る由も無いが、最終的に彼は、この船によって植民地下で虐げられてきた黒人達をアフリカへ帰還させるのが目的だったとされており、ラスタファリアン達にとってハイレ・セラシエ一世が待つ約束の地、エチオピアへと導く希望の象徴として捉えられているのである。
トゥエルブ・トライブス・オブ・イスラエルのリーダーであるサンギー・デイヴィス(Sangie Davis)やアール・チナ・スミス(Earl Chinna Smith)、ジュニア・ダン(Junior Dan)、アルバート・マラウィ(Albert Malawi)といった当時考えられる最高の面子に支えられたレゲエの歴史に金字塔を打ち立てた作品であるこの「Black Star Liner」は70年代がジャマイカの人々にとってどういう時代で、どんな意味を持っていたのかという歴史的背景をはっきりと現在に伝えている。力強いルーツのリズムと彼が吐き出すラスタの崇高なメッセージは見事な調和を果たし、ジャマイカの音楽に一貫して流れる伝統を色濃く表している。本物のラスタマン達によって創造され、商業的にも成功を収めた前例の無い作品でもあった。
リリックス時代を含めても彼が残したリリース量は多くは無いが、「Black Star Liner」で表現した精神はジャマイカ人の中に脈々と受け継がれ、多くのファンを魅了してやまない。
2008/03/04 掲載 (2013/11/27 更新)