Roots Tradition(ルーツ・トラディション)Text by Dub Store Sound Inc.
特筆すべきレーベルの特徴は、先の時代を支配する既存のリズムのリメイクを積極的に行ったという事実にある。後にソウル・シンジケート(Soul Syndicate)やルーツ・ラディックス(Roots Radics)となるミュージシャンを起用し、ルーツとダンスホールを最も強力に結びつけた。
Roots Tradition
設立 |
1976年 |
設立地 |
ジャマイカ キングストン グリニッジ・ファーム |
主要スタジオ |
Aquarious Black Scorpio Channel One Dynamic Jammys Tuff Gong |
設立者 |
Errol 'Don' Mais |
プロデューサー |
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エンジニア |
Bobby Digital Rudy Thomas Scientist |
関連アーティスト |
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70年代後半のシーンにおいて、現在のダンスホールへとつながる新しい時代が幕をあけた。
その2つの時代を強力に結びつけたレーベルがエロール"ドン"メイス(Errol 'Don' Mais)率いるルーツ・トラディション(Roots Tradition)である。エロール"ドン"メイスはアーティストとしてジャー・バイブル(Jah Bible)の名で知られる。
ダンスホールの歴史を紐解く上で、メイスが最初の数ページに登場するべきビッグ・ネームである事は周知の事実であるが、その理由として、どんなアーティストをプロデュースしたりどんなミュージシャンを起用したという事よりも、これからの時代を席巻する既存のリズム、主にスタジオ・ワン(Studio One)のリズムを再発見したという事実の方を特筆すべきかもしれない。
彼が使って最も成功したスタジオ・ワン(Studio One)リズムが、1968年のスリム・スミス(Slim Smith)によるヒット曲'Never Let Go'、通称'Answer'であろう。
後にソウル・シンジケート(Soul Syndicate)やルーツ・ラディックス(Roots Radics)となるミュージシャン達が再構築したこのリズムを使って、フィリップ・フレイザー(Phillip Fraser)の'Never Let Go'やリトル・ジョン(Little John)'What Is Katty'、そしてもっとも強い印象を残す、ブリガディア・ジェリー(Brigadier Jerry)の'Pain'等のヒット曲が生まれている。
1976年から79年までの間にメイスが録音したリズムの中に実際新しい物は一つも無い。だがルーツ・トラディション(Roots Tradition)のセッション・ミュージシャン達が演奏したリズムは、どれもがシーンに新しい風を吹き込んだ。
当時のシーンを構成する要素、つまり多くのセッションでホーンのパートが取り除かれ、既存のリズムを再演するといった方法は単純に経済的な理由であったかも知れないが、結果としてシーンの大きな流れを作った。
その方法が常識となり、多くのプロデューサーがそれに習ったのである。
これから起こる新しい10年と、過去10年、つまりダンスホールとルーツ、2つの時代が交差した瞬間に最も輝きを放ったルーツ・トラディションのスタイルは、後に登場するヘンリー・'ジュンジョ'・ロウズのヴォルケイノ(Volcan)の大きな手本となった。
2008/11/21 掲載